プロンプトXは2024年8月7日に行われた、「令和6年度 SAWACHIエンジニア講座 デジタルツイン編」の講師を務めました。
講座の概要
SAWACHIは、高知県が提供する農業IoTプラットフォームです。以下のトピックについて深く掘り下げました:
これまで「IoTデバイス編」「データビジュアライゼーション編」では下記を取り扱ってきました。
1. SAWACHIの概要と特徴
2. SAWACHIのデータモデルと構造
3. IoTとデータ処理
4. SAWACHIの技術的特徴
今回の講座では、IoPクラウドの目指すデジタルツインに焦点を当て、以下のトピックについて解説しました:
5. デジタルツインとCPS(サイバーフィジカルシステム)
6. 実用化事例
SAWACHIとデジタルツイン
SAWACHIは、高知県の農業に特化したデジタルツインプラットフォームです。このシステムでは、時系列データと属性情報を組み合わせ、高度な分析と予測を可能にしています。
特筆すべき点として、SAWACHIは以下の特徴を持っています:
多様なデータの統合:
SAWACHIは、環境データ(温度・湿度)、設備データ(ボイラー使用量)、画像データ(ハウス内画像)、地理データ(位置情報)、気象データ(天候情報)、生産者データ(農家情報)、市況データ(市場情報)、出荷データ(収穫量・品質)など、多岐にわたるデータを統合管理しています。
分野別モデル化:
生産者属性モデル: 生産者カルテ情報を管理
青果物市況モデル: 各主要品目の主な市場における入荷量、単価、またその推移
出荷モデル: JA連携による出荷量データを管理
気象モデル: 県下を2km/5kmメッシュで網羅(全気象データ)
圃場環境モデル: ハウスの機器構成とデータ連携状況を管理
データの関連付けと分析:
これらのモデルを立体的に活用することで、多面的な分析が可能になります。例えば、気象データと圃場環境データを組み合わせることで、天候変化が作物の生育に与える影響を予測し、適切な環境制御を行うことができます。
CPSによる全体最適化
IoPはサイバーフィジカルシステム(CPS)による農業の全体最適化を目指しています。CPSとは、現実世界(フィジカル空間)とサイバー空間を高度に融合させたシステムのことを指します。
個々の農場や作物の最適化(部分最適)から、地域全体や複数の要素を考慮した最適化(全体最適)へとシステムが進化します。これまで農業経営では「カン」や経験で判断されている部分が多かったのに対し、データとアルゴリズムによる科学的な意思決定が可能になります。そして、農業生産の効率を向上させ、持続可能な農業の実現に貢献します。
SAWACHIの技術的特徴:時系列データベース
CPS実現を担う技術の一つが、独自開発の時系列データベースです。この高性能なデータベースは、IoTデバイスから収集される大量のデータを効率的に処理し、農業分野におけるデジタルツインの実現を可能にしています。
時系列データベースの必要性
従来のリレーショナルデータベース(RDBMS)は、時系列データの処理に適していません。RDBMSでは、データが行ごとにKEY、TIME、VALUEとして格納されるため、検索が遅く、コストが高くなります。また、データの断片化も発生しやすいという問題があります。
一方、時系列データベースは以下の利点があります:
1. 高速なデータの検索や格納
2. 大容量のデータ保存が可能
3. 時系列データの効率的な管理
4. IoTアプリケーションに最適
SAWACHIの時系列データベースは、KEYごとにTIMEとVALUEのペアを効率的に格納するKVS(Key-Valueストア)型を採用しており、高速な検索と格納を実現しています。
SAWACHI内蔵時系列DBの性能
SAWACHIの時系列データベースは、AWS DynamoDBと比較して優れたパフォーマンスを示しています:
データ検索: 約5倍高速
データ書込: 約10倍高速
SAWACHIで採用されている時系列DB
1. IoTサービスに必要な高速データベースの即時利用が可能
2. AWS DynamoDBの5倍以上のパフォーマンスを低コストで実現
3. バックアップやメンテナンスツールの提供によるメンテナンス工数の軽減
これらの特徴により、SAWACHIプラットフォームは農業IoTにおける大量のデータを効率的に処理し、リアルタイムな分析と予測を可能にしています。
デモンストレーション
講座の後半では、参加者の理解を深めるため、実際にArduinoを使用したデバイス制御のデモンストレーションを行いました。このデモンストレーションでは、下記の内容を実演しました
温度による自動ファン制御:温度センサーとファンを組み合わせ、設定温度に応じて自動的にファンのON/OFFを制御するシステムを構築しました。これは、ハウス栽培における温度管理の自動化の基本原理を理解するのに役立ちます。
データのリアルタイム可視化:センサーから取得したデータをリアルタイムでグラフ化し、視覚的に把握する方法を紹介しました。
今後の展望
本講座を通じて、参加者はIoPとデジタルツイン技術の可能性を肌で感じることができました。今後、これらの技術が高知県の農業をさらに発展させ、日本の農業のモデルケースとなることが期待されます。
SAWACHIの詳細については、公式ウェブサイトをご覧ください。また、IoP技術者コミュニティへの参加もお待ちしています。
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