IoPデジタル教材 − 高知県3校の合同授業を見学しました
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2026年6月18日(木)、高知県の農業高校など3つの教育機関が合同で行ったオンライン授業を、IoP技術者コミュニティで見学させていただきました(PROMPT-XはIoP技術者コミュニティの事務局を務めています)。
この記事では、高知県の農業高校で生まれた「IoPデジタル教材」と、それを軸に学校の枠を越えて集まった授業の様子をレポートします。集ったのは、高知県立幡多農業高等学校・高知県立高知農業高等学校・高知県立農業大学校の3校。主役は、自分たちが取りためたトマトの記録を「データで語る」生徒・学生たちです。
IoPデジタル教材とは
高知県では、施設園芸の生産現場をデータでつなぐ「IoP(Internet of Plants)」の取り組みが進んでいます。ハウスの環境や生育のデータをIoPクラウド「SAWACHI」に集め、勘と経験を"見える化"していく試みです。
この基盤を、生徒の学びに活かそうとしているのが「IoPデジタル教材」です。生徒は自分のトマトの生育データを記録しながら、データ駆動型農業を学んでいきます。Chromebookのブラウザから使え、ハウスの環境データは制御盤が自動で取り込み、株の高さや茎の太さといった生育データは生徒自身が測って入力します。
この教材の大きな特徴は、自分たちのデータを、他校のハウスや地域の生産者のデータと比較できることです。「うちのトマトは、よその学校やプロの農家と比べてどうなのか」を、感覚ではなく数字で確かめられます。
IoPデジタル教材の大きな支えになっているのが、地域の篤農家(熟練のトマト生産者)が提供してくださる、現場の貴重な実データです。生徒は、教科書の数字ではなく、高い品質と収量を実際に出しているプロのハウスのデータを物差しに、自分たちの栽培を見つめ直すことができます。篤農家が長年かけて培ってきた"経験やコツ"を、データに基づいて解釈し、次の世代が受け継いでいく ― IoPが、新しい学びのかたちをつくっています。
教材は、生徒や先生の声を取り入れながら、いまも改良が重ねられています。トマトの実の数をAIで数えるような画像解析の活用も、これから期待される広がりの一つです(くわしくは後半の講話で触れます)。
この教材を生み出したのは、高知県立幡多農業高等学校の 安部誠一郎 先生 です。安部先生は「高知県産業教育内地留学者制度」で2022年度に高知大学のIoP共創センターに学び、データ解析やプログラミングを習得。その成果として、高知大学や高知県の協力のもと、SAWACHIのデータを高校生の学びに活かすこの教材を開発しました。取り組みは2023年にIoPの活用事例として紹介され、2025年には文部科学省が全国の好事例を集める「マナビカエル」にも取り上げられています。
データを持ち寄った、3つの学び舎
今回の授業に参加したのは、トマトを学ぶ高知県内の3つの教育機関です。それぞれ離れた場所に位置しますが、オンラインで3校をつなぎ、データに基づいて成果を報告しました。
高知県立幡多農業高等学校(四万十市)― 1941年創立。園芸システム科を中心にトマトを栽培しています。育てたトマトは「はたのうトマト」として地域にも届けられています。
高知県立高知農業高等学校(南国市)― 1890年創立。農業総合科などでトマト栽培に取り組み、ドローンによるリモートセンシングなどスマート農業の学びにも力を入れています。
高知県立農業大学校(いの町)― これから就農する人を育てる県の研修教育施設です。環境制御を備えたハウスでトマトの養液栽培を行い、スマート農業など先進的な営農を学んでいます。
各校の発表
幡多農業高校が挑んだのは、「着果数」と「収量」の関係です。花房ごとに実の数を数え、収量の推移と重ね合わせて調査しました。ある花房に多く実が付くと、次の花房は実が付きにくいという大変興味深い発見を報告しました。
課題研究では、地域の素材である四万十川の青のりを使い「塩ストレスでトマトの糖度を上げられないか」を検証。仮説を立て、塩分濃度の変化を実験で確かめ、高知大学の協力で味を分析し、最後はオリジナル肥料の試作とパッケージのデザインまで ― 一連の探究をやり切りました。
高知農業高校は、栽培管理のスケジュールを振り返りながら、糖度と日射量の関係を考察しました。うまくいったことばかりでなく、設備のトラブルといった「うまくいかなかったこと」も、数字とあわせて率直に共有していたのが印象的でした。発表を受けて、高知大学IoP共創センターの南先生からは「潅水量(水やりの量)も調べてみるとおもしろい」と助言があり、次の作へのヒントが得られました。
高知県立農業大学校は、病害虫に目を向けました。葉や実の食害、ウイルス病(黄化葉巻病)の様子を写真で示し、害虫を抑える天敵(タバコカスミカメ)の活かし方を議論。天敵は増やせばよいというものでもなく、増やしたことで生じた副作用(課題)にも触れ、その現実的な対処を篤農家に尋ねる場面もありました。教科書には書かれていない現場の難しさに、経験者の知恵で応える ― 地に足のついた、実践的なやり取りでした。
篤農家の講話 ― 現場の知恵を、データとともに
授業の後半は、二つの講話で締めくくられました。一つめは、先ほど「着果数と収量」にヒントをくださった大川内さんの講話です。生徒たちが比較の物差しにしている貴重な実データを提供してくださっている、この取り組みの大きな支えでもあります。
講話では、ご自身の経営での取り組みも惜しみなく共有してくださいました。害虫を抑える天敵を計画的に増やして農薬の散布回数を減らせたこと、品種や定植時期の見直しで収量を伸ばせたこと。学生からの「挑戦して失敗したら収入が減るのでは」という率直な問いには、「いきなり全部やらず、まず小さく試して次に活かす」と応じます。締めくくりの言葉は「データに基づくスマート農業を、一緒に目指していきましょう」。次の世代を応援する姿に感銘を受けました。
研究者の講話 ― AIが「数える・見る」を助ける
二つめの講話は、高知大学IoP共創センターで農業分野のAI画像解析を研究する南先生によるものでした。トマトの花・つぼみ・果実をAIが一つひとつ見分けて数える、茎の太さを画像から推定する ― といった、これまで人が目で見て数えていた作業を自動化する研究です。この研究のベースにも、篤農家が植物のどこを見ているかという観察があります。
検出・計測・予測といった「見る・数える」はすでに実用の域に入りつつある一方、収穫ロボットなど物理的な作業の実用化はこれから ― AIの現在地についても学ぶことができました。
学びを、次の世代へ
授業の最後は、先生方からの言葉で締めくくられました。安部先生からは次回は各校が自分たちでAIモデルをつくり、果実の数を検出して既存のモデルと比べてみる ― という新しい挑戦も予告されました。就農人口の減少が社会的課題となっているなか、IoPはデータ駆動と組織や世代を越えた連携で着実に次の担い手を育てています。
最後に、今回の合同授業の見学をIoP技術者コミュニティに許可してくださった安部先生はじめ関係者の皆様に篤くお礼申し上げます。
PROMPT-Xでは仲間を募集しています
PROMPT-Xは東京・鹿児島・高知に拠点を置き、現場の業務課題に最新技術をどう活かすかを一緒に考え、実装まで伴走するエンジニアを募集しています。IoP技術者コミュニティでは事務局を務め、地域に根ざした現場のデータ活用を支援しています。こうした現場づくりに興味がある方は、ぜひ採用情報ページをご覧ください。鹿児島での募集はジョブアンテナ鹿児島もあわせてどうぞ。