IoP技術者コミュニティ施設見学レポート:井上石灰工業株式会社
- ynakahira
- 6月28日
- 読了時間: 7分
「乙女の涙 スウィーティア」はこうして生まれる!井上石灰工業の挑戦と未来
訪問日: 2025年6月10日
訪問先: 井上石灰工業株式会社 様(ぶどう圃場およびフルーツトマト圃場・選果場 香南市)
案内者: 大畑様、武内様、今田様
概要:
今年で2回目となる高知県の「IoP技術者コミュニティ 施設見学会」を行いました。Prompt-XはIoP技術者コミュニティの事務局を務めています。今回の施設見学では、コミュニティのメンバー会員でもある井上石灰工業株式会社さんが手がけるぶどう栽培とフルーツトマト栽培の現場を訪問し、栽培方法、品質管理、出荷戦略、そして直面している課題について説明を受けました。
井上石灰工業さんは、石灰加工製品で日本最大級のシェアを持つ企業です。その基盤事業で培われた知見を活かし、地域貢献と新たな価値創造を目指して農業分野に参入。特に、フルーツトマト栽培とワイナリー事業は、高知県の耕作放棄地問題への懸念と、農業振興・観光振興による地域活性化への強い想いから始まりました。また、県産品であるカツオのたたきと自社ワインとのマリアージュ提案など、高知ならではの食文化の発信にも取り組んでいます。
行程と訪問場所:
ぶどう圃場: 香南市香我美町
フルーツトマト圃場: 香南市香我美町
フルーツトマト選果場: 香南市香我美町
井上ワイナリー: 香南市野市町大谷 2021年2月完成の自社醸造所 Google Maps
懇親会: ラ・ヴィータ (高知市)
1. ワイン用ぶどう栽培
「高知にはブルゴーニュ地方にも負けない石灰の土壌がある」という気づきをきっかけに、2012年よりワイン用ぶどうの栽培を開始。ぶどう栽培にも適した土壌を調査し、みかんの名産地としても知られる香南市香我美町山北地区中心に栽培を行っています。



圃場:
規模: 現在2ヘクタールで、約2万本のぶどうを栽培。1本の木から約1kgの収穫を見込んでいます。将来的にはさらに規模を拡大する計画です。
場所: 以前は複数の場所に点在していましたが、現在は山北周辺への集約を進めているとのことです。
栽培方法と環境:
日照条件: 強い日差しはぶどうの品質向上に寄与し、短期間で風味が凝縮されるのではないかとのことです。
収穫タイミング: 糖度の上昇とともに酸度が低下するため、酸度が適度に保たれた最適なタイミングで収穫しています。
仕立て方: 「かきね仕立て」から降雨量の多い高知の気候に適した「棚仕立て」へと工夫をしています。
灌水: 基本的には自然降雨に依存していますが、夏場の降雨量減少に対応するため、灌水設備の導入を検討中とのことです。気候変動に伴う水源確保の問題は農業が抱える大きな課題になっています。
気象データ活用: 気象庁のデータを参考に栽培管理を行っています。
環境モニタリング: 現時点では専用の環境測定器は導入していませんが、光合成量の測定や樹液流量計の導入を過去に検討したことがあるとのことです。
その他: 本年は春先の低温により、ぶどうの芽の出が遅れるという影響があったそうです。
課題:
労働力確保: 栽培規模拡大に伴い、作業者の確保が課題となっています。現状2ヘクタールを5名で管理しているとのことですが、集約化の進んだ他県では1ヘクタールを1名で管理する事例もあるそうです。
鳥獣害対策: シカやハクビシンによる食害が発生しており、電気柵だけでは十分な効果が得られていない状況です。
参加者からの質問:
「ぶどう栽培において雨を避けることと土壌の水はけの良さのどちらがより重要か」といった栽培技術に関する活発な質疑応答がありました。
2. フルーツトマト栽培
肥料・農薬メーカーとしての知見を活かし、オリジナルのフルーツトマト「乙女の涙スウィーティア」を栽培。高知県はフルーツトマト発祥の地であり、その栽培に適した環境が強みです。


品種・品質:
独自性: 「乙女の涙スウィーティア」は、同社のみで栽培される世界で唯一の新品種。突然変異から生まれた、しずくのような可愛らしい形状が特徴で、長年の研究で、特徴を安定させた栽培に成功。
食味・食感: 糖度9度以上を基準とし、ベリー系の香りと濃厚な甘みを持つフルーツのような味わい。肉厚な果肉でゼリー質が少なく、従来のトマトとは一線を画す食感。スライスすると花びら、縦カットでハート型、輪切りでお花型になるなど、見た目の楽しさも追求しています。
評価: そのユニークな特性と高い品質から、リピーターも多く獲得しています。高級製菓を製造する企業との大口取引もあり、品質と供給力に高い信頼を得ています。
栽培・品質管理:
生育管理: 7ヶ所の圃場で栽培状況の足並みを揃えるため、毎週、樹勢状態の推移と収穫量・収穫時期の調査を実施。茎径を精密に測定し、灌水量の指標とするなど、データに基づいた管理を実践。
品質基準: ブランド価値を維持するため、サイズや糖度には非常に厳しい基準を設定。規格外品もGABA含有量を分析し、機能性を訴求ポイントとした販売戦略を立てています。
出荷・販売戦略:
受注生産: 注文に基づいて出荷する「ジャストインタイム」方式を採用し、ブランド価値の維持と生産の効率化を両立。製造業では一般的な方式ですが、農業で実現しているところに同社の栽培精度の高さや現場の知恵・工夫が詰まっています。
出荷量: 最盛期には1日に300kgものトマトを選果・出荷。
需給調整: 約15年にわたる経験に基づき市場の需要に合わせた供給調整を行っています。より一層の予測精度向上と作業効率の改善が求められています。
課題:
収量予測: 販売機会損失の回避と安定供給のため、正確な収量予測が最重要課題。現在は経験知に頼る部分が大きいですが、昨年度のIoP技術者コミュニティの成果発表会で発表していただいた「AIを活用した高品質・高単価青果の収量予測システム」など、データ駆動型の予測モデル確立に向けた先進的な取り組みを推進中です。特に、日々の収穫量を左右する栽培者の判断(匠の技)をいかにデータ化・モデル化するかが鍵となります。
水管理: 高品質な果実生産のための最適な水分管理は、依然として試行錯誤が続く難易度の高い課題。
コスト: 熟練を要する選果作業の人件費・教育コスト、および選果場運営コストの効率化。


見学のあとは井上石灰工業さんのぶどうで醸造を行う井上ワイナリーに立ち寄り、ワインの試飲やショッピングを楽しみました。


そして懇親会では参加者を交えた意見交換も行いました。


研究連携への期待:
今回の視察に帯同した高知大学・岡林准教授から、光合成に関する共同調査や産地間比較研究などの提案がなされるなど、今後の展開が楽しみです。
企業として農業に取り組む井上石灰工業さんの生産性への追求、また郷土高知への思いが感じられた見学会でした。
PROMPT-Xとしては、今後も引き続き本コミュニティの発展をサポートし、高知県の施設園芸産業のデジタル化・スマート化に貢献していきたいと考えています。
PROMPT-Xは、東京・鹿児島・高知の3拠点で時系列データベースCLOUDSHIPと可視化ソフトRealBoardを軸としたIoT/DXプラットフォーム向けソフトウェアの開発・販売を行うソフトウェアメーカーです。
クラウド (主にAWSやGC) や、IoT関連の開発支援サービスやソリューションの受託開発サービスも提供しています。
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