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IoP技術者コミュニティ成果発表会レポート

  • ynakahira
  • 3月5日
  • 読了時間: 14分

2025年2月13日、高知県産業振興センターにて「令和6年度IOP技術者コミュニティ成果発表会」が開催されました。私たちPROMPT-Xは本年度、コミュニティの事務局として活動をお手伝いしてきました。本記事では、成果発表会の様子と今年度の活動内容について振り返ります。




IoP技術者コミュニティについて


IoP技術者コミュニティは、IoP(Internet of Plants)クラウドに関する技術的な知見を得られ、具体的な技術が習得できる場として令和4年6月に発足しました。現在は県内外47社の企業が参画し、毎月の定例会やデジタル講座などを通じて、業種を超えた学びと相互研鑽を図りながら交流を深めています。


リアルとオンラインのハイブリッドで開催されました
リアルとオンラインのハイブリッドで開催されました

今年度の活動概要


今年度は4つの柱を中心に活動を展開しました:


1. IoP技術者講座の開催


6月から8月にかけて、「IoPクラウド(SAWACHI)」を紹介する講座を3回シリーズで開催。9月と10月には応用編として、技術系以外の方にもSAWACHIに親しんでいただけるよう、営農アプリを開発するというテーマで講座を行いました。



2. 施設見学会の実施


5月には四万十町の次世代施設園芸団地を訪問。最新鋭の設備を備えた施設で統合環境制御システムやロボットを活用した収穫化システムなど、最先端の技術を見学しました。この見学から得た気づきが、その後の技術者講座やアイデアソンにおける「現場で役立つ」という視点につながりました。



3. アイデアソンの実施


11月からSAWACHIの活用アイデアを8チームに考えていただく「SAWACHIアイデアソン」を実施。Teamsを使ってコミュニティメンバーにオープンに進行し、11月と12月にはチーム向け講座も開催しました。


4. データ連携基盤活用実証事業との連携


ネポン株式会社による「IoPデータ基盤を活用した黒枯病防除システム」の実証事業と連携し、知見を共有しました。


成果発表会の内容


SAWACHIアイデアソン発表(8チーム)




1. ㈱高知電子計算センター:営農コミュニティ掲示板「SAWACHI宴会場」


SAWACHIの運用保守に関わり、SAWACHIを知りつくした同社からの提案でした。利用者同士が情報共有できる掲示板システム「SAWACHI宴会場」。AI自動回答機能や共感評価機能により質の高い情報流通を促進し、カメラ読取・音声入力機能によりスマホ操作に不慣れな方でも気軽に質問投稿できる工夫が盛り込まれていました。


SAWACHIの既存機能や利用状況を熟知した上で「利用者同士のつながり」に着目した点は、システム運用者ならではの視点です。現在SAWACHIは環境センサーデータや気象市況情報、出荷量確認、営農ニュースといった豊富な機能を提供していますが、利用者同士が交流できる機能は不足していることに着目しました。システム管理者だからこそ気づく「SAWACHIをより価値あるプラットフォームにするには利用者同士のつながりが重要」という視点は、非常に現場に即した提案でした。






2. ㈱SHIFT PLUS:音声・動画入力による生成AIを活用した農家の暗黙知のナレッジ化


地域活性化事業として県内企業のデジタル化支援や生成AI導入支援を行う同社ならではの提案。生成AIを活用したベテラン農家の技術・知識のデジタル化により、農業における暗黙知の継承という課題に新しいアプローチを示しました。


特に注目すべきは、農家の作業現場での負担を最小限に抑える工夫です。スマホの音声入力や動画撮影という簡単な方法でナレッジを記録できるため、パソコン操作が不要で繁忙期でも取り組みやすい設計になっています。また、単なるナレッジベースの構築にとどまらず、SAWACHIデータと組み合わせることで収穫予測や収益安定化にも応用できる点も評価できます。生成AIの導入実績を持つ企業だからこそ提案できた、技術的にも実現可能性の高いアイデアと感じました。






3. ㈱カミノバ:農業事例共有サイト


ウェブ開発をメインに活動するカミノバからは、農機具レビュー、ブログ作成、質問回答機能を備えた総合プラットフォームの提案がありました。SAWACHIと連携して出荷量や気象データを表示し、kintoneでデータベース管理する構成は、同社のWeb開発とkintone活用のノウハウが活かされています。


この提案の特徴は、「SAWACHI宴会場」と近い部分もありますが、より広範な情報共有を目的とした独立したウェブサイトとして設計されている点に独自性があります。背景として農林水産省のデータを引用し、日本の基幹的農業従事者の減少や平均年齢の高さという課題を見出し、「散在する農業情報の一元化」と「新規参入者へのサポート」という明確なビジョンを示しました。Webサイトとしての使いやすさと、kintoneによるカスタマイズが容易なデータベース管理の組み合わせは、同社のWeb開発経験が活かされた提案と言えます。






4. パシフィックソフトウエア開発㈱:SAWACHIによる収穫物の歩留まり管理


多様な業種向けのシステム開発を手がける同社ならではの発想で、製造業の「歩留まり」という概念を農業に導入した革新的な提案でした。花→実→収穫→出荷の各段階でのロス発生状況を可視化することで、従来の「いくら取れたか」ではなく「どれだけのポテンシャルが失われたか」という視点の転換を提案しました。


この斬新な切り口は、異業種でのシステム開発経験があるからこそ生まれたものでしょう。特に以下の3点は実践的な提案でした。


  1. ロスの可視化: これまで「仕方ない」と諦められていた部分を数値化して見える化

  2. PDCA実現: 測定→分析→改善→効果検証というサイクルを回す

  3. 投資対効果の明確化: 対策を講じるべき重点ポイントが明確になる


SAWACHIのデータ収集力と組み合わせることで、理論上は可能でも実践が難しかった「歩留まり管理」を現実的なものとして提示し、同社のシステム開発力に加えてプレゼン力の高さを感じました。






5. 高知工科大学:農業データのグループ共有とERPシステム


学部生とは思えないほどレベルの高い、技術的に洗練された提案でした。農家経営に焦点を当て、グループ機能、資源管理機能、資源貸借機能を統合したERPシステムは、企業経営で使われる概念を農業に適用した意欲的な試みです。


発表では実際に動くプロトタイプのデモ画面も示され、ソフトウェア工学の学びを活かして設計から実装までを完成させた技術力の高さが伺えました。アイデアも独創的で、農業を「個々の農家の独立した活動」ではなく「協力し合うコミュニティの活動」として捉え直した視点には脱帽しました。農機具や資材を共有することでコスト削減を図りながらも、情報やデータのプライバシーに配慮するというバランスの取れた提案に、IT技術者としての専門知識と若い世代ならではの柔軟な発想が組み合わせが素晴らしい発表でした。


高知工科大学ウェブサイトに掲載された下記の記事もぜひご覧ください






6. ㈱アクト・ノード:SAWACHIによる公共性の高いデータの共有化と活用


県外の企業として参加した同社は、他県での事例、特に愛媛県でのマルドリ栽培(周年マルチ点滴灌水同時施肥法)における「デジタルマルドリ栽培」の知見を活かした実践的な提案を行いました。農水省認定プロジェクトの実績を持つ同社ならではの説得力がありました。


注目すべきは、同社が園芸作物だけでなく、鶏や魚介類(エビなど)を含む様々な一次産業分野でデータ活用の実績を持っている点です。アクト・アップというクラウドアプリを展開し、トマトやみかんといった作物から家禽、水産物まで幅広い生き物の育成に適用可能な汎用性を持っています。また、IoPクラウドが焦点を当てている施設園芸から、マルドリ栽培のような露地栽培への発展可能性を示唆した点も、幅広い知見を持つ企業ならではの視点でした。


提案の核心は「センサーシェアリング」の考え方です。特に農業における大きな課題として、急激な生産人口の減少と気候変動の影響を具体的なデータで示し、これらに対応するためにセンサー設置コストを農家間で分散させる仕組みを提案しました。SAWACHIを通じて広域で有用なデータ(温度・湿度・降水量など)を共有することで、個々の農家の負担軽減と効率化を同時に実現できるのではないかという、生産者のコスト感覚を理解している同社ならではの提案でした。






7. 井上石灰工業㈱:AIを活用した高品質・高単価青果の収量予測システム


実際にフルーツトマト栽培とワイナリー事業を行う同社ならではの、現場目線に根ざした実践的な提案でした。高品質フルーツトマトの正確な収量予測の実現に向けた取り組みは、自社の課題を解決するという明確な目的があるからこその説得力がありました。


特に印象的だったのは、収量予測の正確性がビジネス上いかに重要かを具体的に示した点です。「お客様に一ヶ月後に何100キロ出荷できますと提案したのに、実際はそれより多く作れたとしても、契約量しか売れない」という具体例は、予測精度の重要性を端的に表していました。


栽培データの測定支援、灌水制御支援、栽培管理支援機能を統合したシステムに加え、データだけでなく栽培者の感覚も取り入れるアプローチに、現場の知恵を尊重する姿勢を感じました。準備期間の短いアイデアソンであったにも関わらず、実際にプロトタイプも開発して検証した結果を共有していただき、高品質の農産品の生産に成功している同社の技術開発力の高さを感じました。






8. 高知県:SAWACHI活用によるニラ栽培管理の効率化


高知県農業振興センター・高南農業改良普及所からの提案は、普段から農家の営農指導に携わる立場ならではの現場の課題に根ざしたものでした。ニラにおける複数ハウスの収穫ローテーションという生産方式を紹介し、収益性の可視化、手書き生産履歴の転記作業からの解放を目指す内容に、実務者が日々感じている課題を理解しました。


特に印象的だったのは、理論上はデジタル化が簡単そうに見える作業でも、現場の実態によって思わぬ障壁が生じることを示してくれた点です。OCRによる自動デジタル化を試みたものの、農家さんの筆跡の違いから正確な読み取りが難しかったという経験は「理想と現実のギャップ」をよく表しています。また、農家さんが新技術を導入する際の「わかりやすさ」の重要性も指摘され、「試してみたけど、あんまり良くなかったね」と言われて次の年から使われなくなるという実態も紹介されました。


こうした現場からの声は、技術開発者が陥りがちな「技術中心思考」ではなく、「ユーザー中心思考」の重要性を再認識させる貴重な提案でした。






データ連携基盤活用実証事業報告


アイデアソンの他、ネポン株式会社からは年度を通じて取り組んだ「IoPデータ基盤を活用した黒枯病防除システム」の実証報告がありました。病害防除における課題(防除回数の多さ、作業負担、減収リスク)に対し、SAWACHIのセンサーデータと黒枯病リスク算定式を活用した予防システムを構築。加温機を利用した環境改善による予防効果の検証結果が示されました。


また、施設園芸業界における技術導入の難しさや、ビジネスモデル構築における商流の重要性についても言及され、新規参入企業を含めた様々な企業の協力が、この業界の発展に不可欠であるという示唆に富む発表でした。





アイデアソン後のディスカッション


熱心な議論が交わされました
熱心な議論が交わされました

成果発表会の後半では、各チームの代表者とネポン株式会社の担当者によるディスカッションが行われました。ネポン担当者(柏原氏)から施設園芸業界のビジネス構造についての解説があり、各チーム代表がそれぞれのアイデアがどのような栽培技術領域に貢献できるかについて議論を展開しました。


施設園芸業界の構造と新規参入の課題


ネポン柏原氏から施設園芸業界のビジネス構造について、「商流のつながり」がいかに重要かの説明がありました。また「この業界は新規参入して2年後にはいなくなってしまうケースが多い。機械だけが残され、メンテナンスもできないという状況が続いてきました。そのため、信頼関係の構築が何より大切なのです」という業界特有の背景も共有されました。


データ取得の重要性


アクト・ノードさんからは、「IT技術の一番の欠点はデータが取れないこと。データが取れなければ何の手も足も出ない」という鋭い指摘がありました。さらに興味深い指摘として、「生産者が観察して判断するという部分をいかにデジタルで取り込むかが重要」と述べました。


この意見は多くのチームの共感を得たようで、センシング技術や入力手法の革新が今後の重要課題として浮き彫りになりました。井上石灰工業さんからも「栽培データを手で測って入力している作業がとにかく大変。これを自動化・省力化できれば大きなブレイクスルーになる」という現場からの声が寄せられました。


複数技術の同時進行の必要性


「データ駆動型農業を進めるためには、すべての技術が同時進行で伸びていく必要がある」という見解も重要なポイントでした。環境制御技術、灌水技術、病害防除技術、施肥管理技術、収穫管理技術などが個別に進化するのではなく、総合的に発展することが重要だという指摘です。


実際、井上石灰工業さんから「トマト栽培ではポテンシャルが高くても、管理技術が追いつかないと収量が落ちてしまう」という具体例が示され、栽培のポテンシャルと管理技術のバランスの重要性が強調されました。


新たな協業モデルの可能性


ディスカッションの中で最も期待を感じさせたのは、新たな協業モデルの可能性です。ネポン柏原氏は「我々のような既存企業は固い商流基盤を持っていますが、それを生かして新規参入企業と協力し、新たな価値を市場に届けていきたい」と述べました。


福本教授(高知工科大学)からの「閉じた世界で開発を進めるのか、それとも広く協力を求めていくのか」という質問に対し、ネポン柏原氏は「我々だけでは無理。新規参入企業の新しい風を、我々の商流や人脈を使って広めていただきたい」と回答。この発言に会場からは期待を込めた拍手が起こりました。


現場実装の課題


高南農業改良普及所からは「農家さんでもわかりやすくて、効果がすぐに見える技術でないと普及しない」という現実的な指摘がありました。「農家さんが『試してみたけど、あんまり良くなかったね』と言って次の年から使われなくなる」という事例も紹介され、技術の複雑さや効果の見えにくさが普及の障壁となっている実態が浮き彫りになりました。


福本教授も「現場の作業をどうサポートしていくか」という視点を提起。「知恵の部分はある程度なんとかなると思うが、現場の作業のところが課題。いずれはロボット化するとしても、それまでどうするか」と今後の課題を示唆しました。


総括


今回のアイデアソンはコンテスト形式は取りませんでした。ディスカッションを通じて、個々のアイデアの優劣ではなく、それぞれが異なる課題に対するアプローチとして価値があるということを再認識しました。技術開発、データ収集、現場実装、人材育成といった多面的な課題に対し、各チームが自らの専門性を活かした視点から提案を行い、それらが補完し合うことで全体としての前進が可能になることが確認されました。


「アイデアソンで終わりでなく、今日出たアイデアを皆さんでオフ会でも開いて、コミュニティから商品化するぐらいの勢いで取り組んでほしい」という福本教授の激励の言葉で締めくくられたディスカッションは、今後のIoP技術者コミュニティの発展を感じさせる充実した内容となりました。





今年度の活動成果


活動実績


- 総イベント回数: 18回(定例会・講座含む)

- 総参加者数: 191人

- 平均参加人数: 10.6人/イベント

- 定例会平均参加: 16.1人

- 平均イベント間隔: 16.7日

(※成果報告会を除く)



本年度も本コミュニティは活発かつ持続的に活動を展開できました。特に後半のアイデアソンでは、この活動の勢いを活かしてコミュニティ内の交流も活性化したのではないでしょうか。





おわりに


1年間の活動を通じて、IoP技術者コミュニティは着実に発展し、多くの知見と人的ネットワークが蓄積されました。今回のアイデアソンで生まれた様々なアイデアが、今後のIoPプロジェクトの発展に寄与することを期待しています。


PROMPT-Xとしては、今後も引き続き本コミュニティの発展をサポートし、高知県の施設園芸産業のデジタル化・スマート化に貢献していきたいと考えています。


PROMPT-Xは、東京・鹿児島・高知の3拠点で時系列データベースCLOUDSHIPと可視化ソフトRealBoardを軸としたIoT/DXプラットフォーム向けソフトウェアの開発・販売を行うソフトウェアメーカーです。


クラウド (主にAWSやGC) や、IoT関連の開発支援サービスやソリューションの受託開発サービスも提供しています。


 
 
 

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